この連休、風邪気味で何をするにもイマイチ億劫なので、一気に積読本を読むことに。
そこでセレクトした一冊が、『わたしを離さないで』。
著者カズオ・イシグロ氏の名前を知らずとも、映画『日の名残り』の原作者、と言えば思い至る方が多いのではないかしら。ちなみに、氏の作品は私も初読みです。
原題: Never Let Me Go
出版: 早川書房
著者: kazuo Ishiguro
翻訳: 土屋 政雄
当時、わたしには秘密の遊びがありました。辺りに誰もいないとき、立ち止まって無人の光景をながめるのです。
とにかく無人でさえあれば、どこをどうながめてもよく、要は、ほんの一瞬でも、別世界にいることを想像したかったのだと思います。(本文より抜粋)
いやはや、すごい小説を読んでしまった。
ロマンチックなタイトルに惹かれて手に取ったが最後、ドロ沼に引き摺り込まれるかのように、延々読み続ける羽目に。とは言っても、読破したのはせいぜい深夜2時頃だから、普通であれば、その後それなりに睡眠時間は確保できるはずなのに、読了後の興奮からか、結局一睡もできず。
本を読んで、これほど気持ちが高ぶったのは、本当に久しぶりのことです。
風邪で安静にすべきなのに、まったく。
主人公のキャシー・Hは11年のキャリアを持つ優秀な介護人。彼女は物語の語り部でもあります。
一人称で綴られる彼女の回想によって、次第に輪郭が見えてくる幾つかのナゾ。
少女時代を過ごした施設での思い出、固い絆で結ばれた親友との関係、施設の教師たちの謎めいた奇妙な言動、そして「マダム」の存在、、、。
決して感情を剥き出しにせず、全ての事実を理路整然と語るキャシーの独白は、心地よく読者をその世界に誘(いざな)ってくれました。でも、その一方、彼女のこの徹底した自己抑制ぶりに、ひどく不気味な感覚を抱いたことももまた事実なのです。だって、彼女の回想を通して語られるその現実は、とてつもなく奇怪なものだったのですから。ああ、なんて恐ろしい、、、。
普段、不眠とはほとんど縁のない私が、目が冴えて眠れなくなっちゃうほどだから、その衝撃度はお察し頂くとしても、だからと言って「感動」という類のモノともちょっと違うのだ。
どちらかというと、行き場のない憤りやら漠然とした嫌悪感、そんな不快な感覚がごちゃ混ぜになってたような気がします。そんな中、唯一救われたのは、静謐な美しさに溢れたカズオ・イシグロ氏の文章です。あれほど残酷で不条理な物語なのに、どこかしら温かい優しさにも満ちている、、、それはやはり、氏の傑出した筆力の賜物なのだと思うわけです。
とはいえ、本書について「好きか嫌いか」と問われれば100歩譲って「苦手」と答えるだろうし、「繰り返し読めるか?」の問いに「YES」と即答できるかどうか、それも正直微妙なところ。
それでも、しつこく心の奥底に居座って、いつまでも私の中でじわじわ燻り続けるのだろうなぁ~と、そんな予感を強く抱かせる一冊ではありました。
本当であれば、もう少し踏み込んで説明したいところですが、本書に限ってそれはベストではなさそうなので、これ以上は語りません。本書には、まっさらな心で向き合ってほしいからですから。
要するに、ウダウダ言わずにとにかく読め!と。
(2006年9月17日読了)
そこでセレクトした一冊が、『わたしを離さないで』。
著者カズオ・イシグロ氏の名前を知らずとも、映画『日の名残り』の原作者、と言えば思い至る方が多いのではないかしら。ちなみに、氏の作品は私も初読みです。
原題: Never Let Me Go
出版: 早川書房
著者: kazuo Ishiguro
翻訳: 土屋 政雄
当時、わたしには秘密の遊びがありました。辺りに誰もいないとき、立ち止まって無人の光景をながめるのです。
とにかく無人でさえあれば、どこをどうながめてもよく、要は、ほんの一瞬でも、別世界にいることを想像したかったのだと思います。(本文より抜粋)
いやはや、すごい小説を読んでしまった。
ロマンチックなタイトルに惹かれて手に取ったが最後、ドロ沼に引き摺り込まれるかのように、延々読み続ける羽目に。とは言っても、読破したのはせいぜい深夜2時頃だから、普通であれば、その後それなりに睡眠時間は確保できるはずなのに、読了後の興奮からか、結局一睡もできず。
本を読んで、これほど気持ちが高ぶったのは、本当に久しぶりのことです。
風邪で安静にすべきなのに、まったく。
主人公のキャシー・Hは11年のキャリアを持つ優秀な介護人。彼女は物語の語り部でもあります。
一人称で綴られる彼女の回想によって、次第に輪郭が見えてくる幾つかのナゾ。
少女時代を過ごした施設での思い出、固い絆で結ばれた親友との関係、施設の教師たちの謎めいた奇妙な言動、そして「マダム」の存在、、、。
決して感情を剥き出しにせず、全ての事実を理路整然と語るキャシーの独白は、心地よく読者をその世界に誘(いざな)ってくれました。でも、その一方、彼女のこの徹底した自己抑制ぶりに、ひどく不気味な感覚を抱いたことももまた事実なのです。だって、彼女の回想を通して語られるその現実は、とてつもなく奇怪なものだったのですから。ああ、なんて恐ろしい、、、。
普段、不眠とはほとんど縁のない私が、目が冴えて眠れなくなっちゃうほどだから、その衝撃度はお察し頂くとしても、だからと言って「感動」という類のモノともちょっと違うのだ。
どちらかというと、行き場のない憤りやら漠然とした嫌悪感、そんな不快な感覚がごちゃ混ぜになってたような気がします。そんな中、唯一救われたのは、静謐な美しさに溢れたカズオ・イシグロ氏の文章です。あれほど残酷で不条理な物語なのに、どこかしら温かい優しさにも満ちている、、、それはやはり、氏の傑出した筆力の賜物なのだと思うわけです。
とはいえ、本書について「好きか嫌いか」と問われれば100歩譲って「苦手」と答えるだろうし、「繰り返し読めるか?」の問いに「YES」と即答できるかどうか、それも正直微妙なところ。
それでも、しつこく心の奥底に居座って、いつまでも私の中でじわじわ燻り続けるのだろうなぁ~と、そんな予感を強く抱かせる一冊ではありました。
本当であれば、もう少し踏み込んで説明したいところですが、本書に限ってそれはベストではなさそうなので、これ以上は語りません。本書には、まっさらな心で向き合ってほしいからですから。
要するに、ウダウダ言わずにとにかく読め!と。
(2006年9月17日読了)