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心に残った映画や読書の記録。日々の備忘録のようなモノ。【ブログ管理人:小夏】


by 小夏
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父親たちの星条旗 (2006年、米)


c0046869_19391348.jpg原題: FLAGS OF OUR FATHERS
監督: クリント・イーストウッド
製作: スティーヴン・スピルバーグ
    クリント・イーストウッド
脚本: ポール・ハギス
音楽: クリント・イーストウッド
出演: ライアン・フィリップ
    ジェシー・ブラッドフォード
    アダム・ビーチ
    ジェイミー・ベル
    バリー・ペッパー
    ポール・ウォーカー
    ジョン・ベンジャミン・ヒッキー
    ジョン・スラッテリー
    ロバート・パトリック
    ニール・マクドノー



冒頭、漆黒に彩られた画面から一転、黒い噴煙のあがる戦場で方向感覚を失ったひとりのアメリカ兵が映し出される。激しい爆撃音に紛れて微かに聞こえる自分を呼ぶ声。“Corpsman!”
圧巻だった。怒涛のごとく襲ってくる冒頭シーンに、心をぐいと掴まれたような気がした。
一気に惹き込まれるには充分の迫力だった。

【STORY】
日米双方の視点から描く硫黄島プロジェクト第一弾『父親たちの星条旗』は、硫黄島戦をアメリカ側の視点から描いた物語だ。太平洋戦争末期の1945年2月23日、硫黄島激戦の真っ只中に撮影された一枚の写真。そこには、砲弾と火山灰で覆われた山頂に星条旗を掲げる6人のアメリカ兵の姿が写し出されていた。
映画では、爆撃の中継基地として占領しようと硫黄島に押し寄せるアメリカ兵と玉砕覚悟でそれを死守する日本兵との激しい攻防戦、そして同時に、「英雄」と讃えられた3名の帰還兵のその後の人生にスポットを当て、「英雄」たちの真実を描く。

戦闘シーンでは、『プライベート・ライアン』を彷彿とさせる壮絶な描写が見られたものの、私はそれほど気にならなかった。それ以上に、映像に対するこだわりを強く感じた作品だったと思う。
硫黄島は、黒い火山灰に覆われた島だそうだ。
それゆえ、アメリカ兵たちは恐れを込めてこの地を“Black death island”と呼んだとも聞く。
これを際立たせるためであろうか、硫黄島のシーン全てが徹底して「黒」を基調とした独特な映像色彩で覆われていた。激しい砲撃によって舞い上がるドス黒い噴煙、黒く濁った空。
まさに、「死に満ちた黒い島」である。
その効果は、特に戦闘シーンに顕著に現れていた。血塗られた壮絶なシーンを描きながらも、血は赤くなく、どこかしら淡々とした冷静な視点を感じるのだ。それゆえ、凄惨な局面であっても目を逸らさず観ることができたのだと思う。
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硫黄島山頂で撮影された一枚の写真は、戦争の勝利の行方を決定づけ、帰還した3人は国民的英雄として祭り上げられていく。長引く戦争によって国庫が破綻寸前だったアメリカ政府にとって、彼らの存在はまさに天の恵み、千載一遇のチャンスと映ったに違いないのだ。
熱狂的国民の喝采で迎えられた3人は、やがて政府の戦時国債キャンペーンに駆り出されてゆく。求められるのは「英雄」としての立ち振る舞いであり、言葉である。そこそこ武勇伝を語り国民の愛国心とやらを煽ってもらえりゃいいわけだ。すべては国債を買わせようとの魂胆なのだから。
まさに客寄せパンダである。それは滑稽な茶番劇でしかない。

そんな中、アダム・ビーチ演ずるインディアン兵の自滅的な生き様が強く印象に残った。
「インディアン」という出自により迫害される現実と「英雄」として賞賛される自分自身とのギャップ。そして戦場で命果てた仲間への思い。苦悩は次第に精神を蝕んでゆき、やがて破滅へと向かう。彼の死はあっけなく訪れる。かつて英雄と讃えられた男の最期はあまりにも寂しいものだった。
「英雄」たちの生き方は実に様々だ。立場を利用してより高い地位と名声を求める者(ジェシー・ブラッドフォード)もいれば、真実を封印し頑なに沈黙を守り続ける者(ライアン・フィリップ)もいる。それぞれがその後の人生を必死に模索する。しかし、彼らの後ろには常に戦争の影がつきまとい、悪夢から逃れる術はない。彼らに心の平安が訪れることは生涯なかったのかもしれない。
そんな無情な現実を、人間の心の深淵を、イーストウッド監督が丁寧に抉り出してゆく。
決して戦争を美化せず、感情に押し流されることなく、私たちが抱く「英雄」という甘い幻想を呆気なく打ち砕いてしまう。けれど、彼の眼差しはどこまでも真摯で誠実だ。

c0046869_19554743.jpg12月9日に公開予定の硫黄島プロジェクト第二弾『硫黄島からの手紙』では、今回一切映し出されることのなかった個々の日本人兵士たちの心情について描かれるのだろう。イーストウッド監督が新たにどのようなメッセージを掲げてくれるのか、期待はますます膨らむばかりである。
日本人として、是非とも観るべき一本だと思う。
観る意義は大きい。
(2006年11月1日 劇場鑑賞)

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by marienkind | 2006-11-03 19:59 | 映画評